比例道

森永卓郎氏のザイム真理教レビュー

2024年9月4日 08:00 ・ 社会 ・ 経済 ・ 読書 ・ 元の記事
この本を読まなくても財務省の考え方が間違っていることは経済学を学んでいる人は分かっている。だからこの本が想定する読者は経済学を知らない人だ。その読者のためにわかりやすくすることを重視したせいで、正確ではない箇所や論理展開が完全ではない箇所がある。それを指摘して本書の価値を貶めようとする人もいるが、それは無粋というものだ。森永氏も記述が不足している箇所があることは十分わかっている。経済学を知らない人が陥りやすい基本的な勘違いを正すのが本書の目的なので、それさえ伝われば瑣末なことは無視してよい。とは言え、良くないインフレに到達するまでの期間の見積もりについては森永氏の見積もりは甘いかもしれない。あと慶應大の小幡績教授への評価は間違っている。小幡績教授は財務省の考えに染まってはいない。

自分たちだけは甘い汁を吸えるように悪事を働いていると財務省の職員が認識しているならまだ救いがある。そうではなく彼らは自分が正しいことをしていると思い込んで、自分以外の国民だけでなく自分たちも貧しくなることも理解できずに、破滅に向かってまっしぐらにつき進んでいるのだ。財務省に国民が洗脳されているのとは少し違う。財務省の職員が洗脳されているのだ。洗脳下にある彼らは善意で国民にザイム真理教を勧めているのだ。彼らは国民を洗脳しようとしているのではない。善意でやっているのだ。もはや論理は通じない。

本書を読んで国の財政と家庭の家計簿は違うということさえ読者に伝われば今は十分だ。経済学と物理学に造詣の深い人のために解説すると、国の財政は過渡状態の動的事象であり、それに対して企業の貸借対照表や家庭の家計簿は静的事象であるので同一視してはいけないということだ。国の財政をどのように運営すればうまくゆくかは、世界のどの国でも答の出ていない問題だ。それをこうすれば良いと断じることは21世紀の今は誰にもできない。なぜなら20世紀以降の経済は複雑系かつ常に過渡状態だからだ。複雑系なので過渡状態が発散するのか収斂するのか振動するのかは定まらない。運良く振動するとしてもその周期は数年かもしれないし数十年かもしれない。人間の寿命は高々100年なので、過渡状態のどの期間に生きるかによって物事の捉え方が変わってしまう。だから優秀な経済学者であってもどの期間に生きていたかで考え方にバイアスがかかる。以上述べた状況の全てが分かって(=不完全なデータと不完全な理論で複雑系の未来を推定せざるを得ないことが分かって)経済政策を議論できる人はいることはいるのだが世界に数十人しかいない。今頭の中でカウントしたら日本だけでも確実に数人はいるので、世界中では数千人はいそうだ。ここは訂正しよう。しかし悲しいことに財務省には一人もいないし日本の政治家にもいない。だから日本経済が低迷するのは仕方のないことであり当然のことだ。政治家は選挙で首をすげ替えられるかもしれないが、財務省の人間を全てすげ替えることはよほど強権的な政治家が現れて財務省を解体しない限りできない。その実現可能性はどこかの国が日本に戦争をしかける可能性よりはるかに小さい。あり得ないと言ってよい。残念ながら打つ手なしだ。将来日本国民は財務省の職員を含めてみんな貧しくなり、外国でも通用する人は日本から逃げ出すことだけが確定している。

歴史好きの人のために解説すると、ソ連が崩壊した理由は近代国家の経済が複雑系であることに気づかなかったからだ。よい答を見つけるのがとても難しい経済政策を共産党幹部というおつむの弱い連中が思いつきで決めていったからだ。アフガニスタン侵攻等の事件は本質ではない。ソ連崩壊の本質は経済問題であり、経済問題を解くのがいかに難しいかを理解すればソ連崩壊は必然だったとわかる。そしておつむの弱い共産党幹部と自分は賢いと思ってる財務省の職員が同じ過ちをおかしているという訳だ。

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